日本宗教者平和協議会 2020年度運動方針


■はじめに
 日本宗教者平和協議会(日本宗平協)は、1962年4月12日の結成以来、「平和の祈りを行動の波へ」と、宗教者・教団の戦争協力・加担の責任の自覚とその反省に基づき、宗教・信仰の違いをこえ、生きとし生けるものの尊厳を守り、信教の自由・政教分離、9条改憲阻止、戦争法廃止、辺野古新基地建設阻止、核兵器のない世界、原発ゼロ、悪政ストップなどの諸行動に取り組んできました。
 二度と戦争への道を歩ませてはならないとの道理に基づき、暴力が暴力を招く「憎悪の連鎖」を断ち切ろうと57年にわたる歩みを続けてきた諸先達の方々の歩みに思いを馳せ、共闘・連帯を広げながら被爆国日本の現代に生きる宗教者としての役割を発揮していく決意です。
 いま、世界に広がる新型コロナウイルス感染症により非常事態宣言が発せられ、経済活動、生活、平和社会進歩活動、イベントなどの自粛要請によって感染防止生活が続けられています。しかし、自粛と補償がセットでなければ、感染拡大は防げません。
 しかし、安倍政権は僅かな支援金に止め、補償は一切口にせず「非常事態」を利用した憲法改悪論議を展開しています。コロナ禍の重大事態の中、「検察庁法の定年規定を蹂躙し、検察人事への政権介入に道を開く「検察庁法」の改定を強行しようとしましたが、野党の国会論戦や全国の弁護士会の意見表明に加え、「#検察庁法改正案に抗議します」の市民の画期的な世論によって採択断念に追い込みました。黒川東京高検検事長の定年延長の閣議決定を撤回。検察庁法改悪の撤回を求めます。
 国民主権、政教分離の原則など現行憲法の精神にかなった「代替わり儀式」をとの声を無視し、安倍改憲戦略と絡まりながら、天皇「代替わり」儀式と改元が展開されました。現人神である天皇を中心とする国家神道を徹底する立場から明治憲法下の絶対主義的天皇制のもとで公布された旧皇室典範と登極令を踏襲して国事行為や国家的行事として「天皇主権」時代のままに、神話の世界につながる宗教色の濃い代替わり儀式を強行しました。
 広島・長崎への原爆の投下から74年を迎えた昨年8月、原水爆禁止運動は、被爆者と共に「核兵器禁止条約に署名・批准するよう各国政府に呼びかけよう」と訴えました。核兵器を非人道的兵器として明確に違法とし、核兵器廃絶へ大きく前進する核兵器禁止条約が2017年7月、国連で122カ国の賛成多数で採択され、70カ国が署名、37カ国が批准しています(5月31日現在)。今年度中にも発効要件の50カ国の批准達成が見込まれます。
 昨年11月には核兵器廃絶を訴えてきたフランシスコ・ローマ教皇が来日し、広島・長崎を訪問し、全日仏など他宗教にも大きな影響を与え「ヒバクシャ国際署名」への協力を表明しました。私たちは、核兵器禁止条約に署名・批准する日本とするためにも、内外の宗教者に「ヒバクシャ国際署名」を呼びかけ、国民運動の前進に寄与します。
 昨年2月の沖縄での県民投票では「辺野古新基地建設反対・基地撤去」こそが県民の民意であることが力強く示されました。私たちも、沖縄の「島ぐるみ宗教者の会」に連帯して取り組みました。しかし、安倍政権は沖縄県民に「寄り添う」と言いつつ、法治主義、地方自治、民主主義を踏みにじり軟弱地盤や活断層の存在など、完成の見通しもない中で辺野古の海を埋め立てる土砂投入を開始しています。さらに安倍政権は設計変更の申請を4月21日提出しました。引き続き、「島ぐるみ宗教者の会」に連帯して取り組みます。
 この2年、世界では朝鮮半島の非核化と北東アジアの平和、平和体制構築に向けたプロセスが始まり、「対立から平和へ」の流れが強まっています。 敵対行動や挑発的行動など暴力や恫喝の連鎖を断ち切り、対話と交渉による平和的解決のチャンスの芽を育て、実らせましょう。
 差別に対抗し、性被害の告発運動「#Me oo(私も)」やジェンダー平等運動が世界中に広がり、性暴力告発に取り組む2人がノーベル平和賞を受賞し、性暴力根絶への国際社会の取り組みが広がっています。
さらに、米国では銃乱射事件の惨劇がくり返されるなか、若者が銃規制強化を求めて行動しています。偏見・差別の克服は人権・平和への不可欠な要素です。宗教と信仰の違いを超えた活動を続ける私たちの本領を発揮しましょう
 安倍政権はいま、「忖度」発言で副大臣が、人命軽視の暴言などで大臣が相次いで辞任するなど政権を根底から揺さぶる激動に遭遇しています。国会では、桜を見る会の税金投入の私物化などウソと隠蔽の政治が極まり、「数の力」による強行採決など、民意を踏みにじり、国会を愚弄する憲法破壊、国民主権と議会制民主主義破壊の安倍強権政治の無法が横行しています。
 こうしたなかで、平和といのちを大切にする宗教者・教団が、憲法改悪に反対する「3000万人署名」や「発議させない」署名、辺野古新基地建設反対などに立ち上がっています。
 安倍政権は、集団的自衛権行使容認の解釈改憲に続き、安保法制=「戦争法」を強行し、「戦争する国」づくりを推し進めています。宗教者も、「殺すな、殺させるな、殺すことを許すな」と、二度と戦争の惨禍をくり返させないために「戦争法」廃止、日米安保条約の廃棄などの歴史的たたかいの一端を担ってきました。
 安倍政権は、朝鮮半島の変化に逆行し、今後5年間で約27・5兆円もの軍事費をつぎ込む時代錯誤の大軍拡を推し進めようとしています。
 いのちと平和な未来にかかわる諸課題での国民的運動の共同の教訓を活かし、市民と野党の共闘という壮大なたたかいに合流し、現在と未来のために情勢にふさわしい宗教者の取り組みをすすめます。来る国政選挙で、市民と野党の共闘の勝利で新しい希望ある政治に道を開き、最悪の安倍暴走政治にストップをかけ、早期退陣に追い込みましょう。

【Ⅰ】 安倍9条改憲阻止、「戦争する国」づくりを許さない
 安倍政権は、小選挙区制のゆがみのもとで国会の多数を握り、9条改憲など「戦争する国」づくりへの暴走をつづけています。広範な宗教者、教団・団体は、わが国の平和と国民のいのちを危険にさらす「戦争法」の廃止などを求め安倍政権と対峙してきました。
はびこる「忖度」政治と決別し、文字通り改憲阻止の最大の山場の年となる今年、戦争法廃止、辺野古新基地建設阻止、核兵器のない世界、安倍9条改憲を許さず、安倍政権の大軍拡路線に反対する取り組みが重要となっています。
 二度と戦争をしないと誓った憲法9条。戦争と植民地支配の深い反省の上に立って、9条を生かした平和外交で、アジアと世界に平和を築いていくことは戦争に生き残った者が犠牲者に報いる唯一の道です。
 昨年の参議院選挙で安倍政権が狙う発議に必要な3分の2を阻止しました。野党共闘と市民運動が共同の政策を掲げたたたかいで前進しました。
 トランプ大統領いいなりの米国製兵器の「爆買い」による大軍拡が、国民のくらしも憲法も押しつぶしています。 2020年度予算案で軍事費は6年連続で過去最高を更新し、史上最大の軍事予算です。イージス・アショアやオスプレイの全国配置、また「いずも」型護衛艦を改造し空母化、アメリカのFー35B多用途ステルス戦闘機(1機150億円)42機を買い入れが進められています。これは「攻撃的兵器の保有は、いかなる場合も許されない」としてきた憲法上の立場を蹂躙(じゅうりん)し、自衛隊を軍事力の点でも、海外で武力行使する軍隊へ変貌させるものにほかなりません。
 平和憲法を持つ日本で、大軍拡の暴走が国民の暮らしを押しつぶし、日米の兵器産業が栄えることなどあってはなりません。軍事費を削って、暮らしと福祉へ転換させる政治に変えましょう。
 安倍自公政権は、改憲右翼団体「日本会議」と一体に特定秘密保護法(13年)、安保法制=戦争法(15年)、共謀罪(17年)などを強行採決し、「戦争する国」づくりに暴走してきました。立憲主義の回復のための取り組みが緊急に求められています。
 米軍横田基地などへのオスプレイ配備に反対し、日米地位協定の抜本改正を要求します。
 創価学会が、安倍政権の「戦争する国」づくりの暴走に加担し続けている公明党と一体となっていることは厳しく批判されなければなりません。
 安倍首相は新春(1月6日)インタビューで、「私の任期中に私自身の手でやり遂げていく」と執念を燃やし 2020年から施行したいと言い切り、自民党は全国に改憲推進本部の設置を「督促」する通達を発するなど、草の根の憲法対決を基礎として9条改憲をあくまで進める執念を示し、改憲案を国会提示しようと企てています。
 安倍改憲の策動に終止符を打つたたかいが急務であり、草の根からの改憲運動には、全国津々浦々での「9条の会」や「3000万人署名」や「発動を許さない」署名など草の根からの運動で包囲し、国民のたたかいと国政選挙での審判で改憲策動を安倍政権もろとも葬り去りましょう。

【Ⅱ】「平和の祈りを行動の波へ」

(1)天皇の「代替わり」、信教の自由、政教分離のために
 日本国憲法の定める「思想・信条の自由」(19条)、「信教の自由」(20条)、「表現の自由」(21条)の市民的自由が全面的に保障される社会をめざしましょう。各人の思想・良心の自由に合理的な根拠もなく立ち入ることは許されません。憲法9条改憲、「戦争する国づくり」の完成を許さず、この大原則を守り広げることが重要です。
 憲法前文では「主権が国民に存する」ことを宣言し、第1条は「(天皇の)この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」とあります。今後の天皇制を決めるのは主権者国民です。
 政府は昨年の4月30日、天皇の「退位の礼」として「退位礼正殿の儀」を、また、5月1日には皇太子の即位に伴う「即位の礼」として「剣爾等承継の儀」「即位後朝見の儀」を国事行為として行いました。
 又、10月には、「即位礼正殿の儀」、宗教儀式そのものである「大嘗祭」などの儀式を国事行為や公的性格を持つ儀式としました。これらは、憲法にもとづく国民主権や政教分離の原則に照らしても、また、宗教の平等性の観点からも大問題です。
 安倍政権は、天皇「代替わり」を利用し、戦後の「平和な日本」を屈辱的な「戦後レジーム」と否定し、戦前のような「強い日本を取り戻す」ためにと憲法改正に執念をもやしています。
安倍政権は、国民の思想、情報、宣伝に重要な影響をもつマスコミへの介入を強めています。「表現の自由」「知る権利」を守り、民主主義と言論の自由、主権在民や信教の自由、政教分離を定めた日本国憲法を守り抜くことが求められています。

(2)核兵器廃絶、3・1ビキニデー・墓前祭と世界大会
 2020年・被爆75年を迎えました。昨年の原水爆禁止世界大会は「核兵器に固執する勢力の抵抗を乗り越え、核兵器のない世界への確かな道を切り開く壮大な運動をくりひろげよう」と世界に訴えました。しかし新型コロナウイルス感染が世界中に広がり、2020年のニューヨークでの核不拡散条約(NPT)再検討会議が延期。原水爆禁止世界大会inニューヨークも中止となりましたが、4月25日「オンライン原水爆禁止世界大会」が開催されました。
 平均年齢83歳を超えた広島・長崎の被爆者の「生きているうちに核兵器の廃絶を」との願い実現のために、「核兵器のない世界」へ市民社会の運動が力を合わせ、政治を動かす世論をつくり出さなければなりません。そのために、被爆者が呼びかけた「ヒバクシャ国際署名」を宗教界にひろげ、被爆の実相の普及、被爆者支援連帯の取り組みを前進させましょう。
 2017年7月、核兵器の非人道性にたいする理解が国際社会の共通認識に広がるなか、国連は多数の加盟国と市民社会の代表も交えて、核兵器禁止条約を採択しました。
 いま、世界を動かしているのは草の根から声をあげ行動する人びとの世論と運動です。戦争による核兵器の惨害を体験した被爆者と日本国民の取り組みが、「核兵器のない世界」へと歴史を動かしています。
 核兵器禁止条約の発効、NPT合意事項の実行を求め、日本政府に政策を変え、改めて核兵器禁止条約への調印・批准を求めましょう。
 日本宗平協は今年も、久保山愛吉墓前祭を主催しました。独自に「被災66年 宗教者平和運動交流集会」を開催し、2020年原水爆禁止世界大会inニューヨークへ日本宗教者代表団の結成と山本義彦第五福竜丸平和協会理事長の講演を行いました。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で規模縮小しての取り組みとなりました。
 5月6日にオンラインでスタートした「2020年国民平和大行進」は、全国各地の知恵と工夫で行うこととなりました。
 被爆75年を迎える8月の広島・長崎で開かれる原水爆禁止世界大会はオンライン会議で開催され、その関連行事「いのちをえらびとる断食のいのり」も現段階での実施について規模を縮小しての開催を検討中です。
 憲法9条と非核三原則を輝かせ核兵器廃絶の先頭に立つ日本とするために奮闘し、2021年の被災67年の墓前祭とビキニデー諸集会、延期されたNPT再検討会議、被爆76年の諸行動を創意と工夫で成功させましょう。

(3)日本宗教者平和会議
 10月の国連軍縮週間に呼応する日本宗教者平和会議は、日本宗平協が主催し、開催地をはじめ広範な宗教者に参加をよびかけて開催してきました。日本宗教者平和会議開催の意義は、毎年時宜にかなったテーマを設定しながら平和を希求する宗教者としての学びを具体的な実践に結びつけていくことにあります。
 昨年は、沖縄で稲嶺進「島ぐるみ会議」共同代表の講演、宗教者島ぐるみの谷大二氏、岡田弘隆師の報告を受けました。オプショナルツアーとして、宮古島の自衛隊軍事基地化の反対のたたかいを坂口聖子牧師が報告、建設中の基地を調査しました。この島に基地はいらないとたたかいが進められています
 今年の日本宗教者平和会議は、「戦後75年―問われる侵略戦争と植民地支配から和解と希望へ」(仮題)をテーマに学習・交流しようと、102628日北海道旭川・笹の墓標展示館(オプションを含む)の日程での開催を予定します。

(4)沖縄県民と連帯し、辺野古新基地建設、宮古島、石垣島など諸島の自衛隊基地建設を許さない
 日米地位協定の一日も早い抜本的改正など、憲法9条にふさわしい安全保障政策の実現と、民意無視、強権的な米軍新基地建設を許さず、基地被害根絶のために、沖縄県の広範な宗教者によって結成された「辺野古新基地を造らせない島ぐるみ宗教者の会」(略称・島ぐるみ宗教者の会)の闘いに連帯します。
 日本宗平協はこの間、「平和の鐘」を打ち鳴らし、祈りと連帯の行動をひろげ、「辺野古に新基地はつくらせない」「普天間基地は即時閉鎖・撤去を」の確固とした意志を示しました。
 一昨年12月、辺野古の海を埋め立てる土砂投入を開始した安倍政権の横暴無法への怒りの広がりとともに、大浦湾の最深90メートルもの超軟弱地盤の改良工事や活断層の問題など、技術的にも法的にも基地建設は極めて困難であることが鮮明になっています。昨年の12月に抗議集会が開かれ日本宗平協の事務局長が参加しました。
 自公政権は4月21日、設計変更を沖縄県に提出しました。変更申請によれば、埋め立て区域北側の大浦湾の大半で軟弱地盤の改良工事が必要となり、総工費は設計変更前の2・7倍、約9300億円にはね上がり、工期は変更後の工事着手から9年3カ月、実際の基地運用までには約12年を要するとされています。そのため、当初2022年以降としていた普天間基地からの「移転」は、2030年代にずれ込むことになり、一日も早い沖縄県の基地負担軽減という国の口実は空文句となりました。
 名護市辺野古で軍港を持つ耐用年数200年という新基地建設を許せば、米海兵隊の海外侵攻、「殴り込み」作戦のための一大出撃拠点となります。 基本的人権の尊重、平和主義、民主主義、地方自治という日本国憲法の原理を踏みにじる新基地建設強行は絶対に許せません。「美しい宝の海を守ろう」との世論と運動を全国でいっそう強めつつ、新基地建設計画を完全撤回させましょう。

(5)原発ゼロの未来を
 生きとし生けるもののいのちと、かけがえのない地球をまもり、原発に依存しない社会を目指していくことは不可欠です。東日本大震災から9年。東京電力福島第1原発の重大事故はいまだに収束せず、住民の避難生活も続いています。
 「核兵器とも原発とも人類は共存できない」は宗教者としての基本的命題であり、人間を中心とした復興、原発廃止・再稼動反対を、原発被害者支援活動と併せて主要課題として取り組んでいきます。
 私たちは今年も9回目の「諸宗教による祈りの集い」開催を準備していましたが、新型コロナウイルスの影響により中止を余儀なくされました。
 今後とも東日本大震災・原発事故被災地を訪れ、被災地の人びととともに原発ゼロを願い、各宗教・宗派による祈りをともにする「祈りの集い」を継続していきます。
 福島第一原発事故で避難指示が出された福島県浜通りの楢葉町、浪江町、大熊町、双葉町、富岡町などの住民216人が東電に約18億6千万円損害賠償を求めた福島原発避難者訴訟(早川篤雄原告団長)の控訴審判決が3月12日、仙台高裁(小林久起裁判長)でありました。
 判決は一審・福島地裁いわき支部判決を約1億5千万円上積みし総額約7億3千万円の支払いを命じました。
 東電に対して津波対策の工事を「先送りしてきた」と断罪した。一連の集団訴訟では初の高裁判決です。
 野党4党は昨年3月、原発ゼロを政治の意思として決断することを明確にした画期的な「原発ゼロ基本法案」を共同提出しました。
 被害者切り捨てを許さず、連帯して被害者救済を勝ち取ろうと「原発被害者訴訟原告団全国連絡会」が結成され、各地で「原発避難集団訴訟」が取り組まれています。被災地福島とともに「国と東電は責任を果たせ」と要求し、福島の真の復興と原発ゼロ基本法の制定、再生可能エネルギーへの転換をめざし、原発ゼロの未来をつくりあげましょう
 また、3月9日には「原子力行政を問い直す宗教者の会」を中心にした211名の宗教者が日本原燃の青森県六ヶ所村の核燃料サイクル事業廃止を求める裁判を、日本の最大エネルギー消費地である東京の地裁に提訴しました。未来への宗教者の倫理性が問われています。

(6)個人の尊厳、人権擁護、格差是正
 憲法は法の下での平等、個人の尊厳と自由を定めています。人間の平等を基本に、貧困や差別のない社会、子どもの虐待、女性差別を許さず、高齢者、障害者、LGBTなど、弱者や少数派の権利と尊厳を守り擁護します。
 いま、国民の暮らしと福祉をどう守るのか厳しく問われています。しかし、安倍政権は、消費税増税は幼児の保育・教育無償化など「全世代型社会保障」の実現の財源確保のためとしていますが、過去最大の軍事費を計上する一方で、社会保障は切り捨てられるなど、教育、雇用、医療、介護、年金などの諸課題に背を向け、政治権力の「弱者」に対するおごりや切り捨てがあふれています。
 労働の長時間化、低賃金化、雇用条件の悪化等困難な状況が広がりつつあり、憲法に明記されている生存権がないがしろにされています。
 民族的権利の保障と伝統文化の継承・発展、民族の尊厳を保障とともに、特定の民族や人種、集団、とりわけ在日コリアンの人びとへのヘイトスピーチは断固として根絶されなければなりません。旧日本軍「慰安婦」、徴用工問題など、朝鮮半島の植民地支配への反省が正面から提起されています。過去にどう向き合うかは、未来をどうつくるかにかかわっています。教団の戦争責任を真摯に問いつづけなければなりません。
 関東大震災朝鮮人犠牲者追悼行事、朝鮮人強制連行・強制労働とそれに伴う広島・長崎での被爆死を生んだ歴史などを想起し、こうした問題を記憶に留め、伝えつづけることこそが未来への展望を開くことになります。戦争責任への視点を決して曇らせてはなりません。
 日本会議や統一協会(現家庭連合)などの動向に引き続き注視していかなけれなりません。また、神社本庁による有名神社の人事権を握ろうとする動きにも厳しい目を向け続けなければなりません。
 相次ぐ自然災害のもとで、教科書に自衛隊について災害救助や「国の平和と安全を守る」「国連の平和維持活動(PKO)への参加」などが記述されています。戦争法のもとで米軍とともに海外で戦争するという本質には触れないで、子どもたちに自衛隊への理解を広げたい意図が反映しています。
 監視社会が深化する中、本人が知らないところで警察など公権力が法律で定められた権限を超えて、一般市民を監視し、個人情報を収集するなど言語道断です。県と国を相手に損害賠償と収集された個人情報の抹消を求める大垣市警察市民監視事件の裁判を支援し、監視社会を強化する「共謀罪」の廃止を求めます。
憲法13条の「幸福追求の権利」、第19条の「思想良心の自由」の擁護のために引き続き努力します。憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあります。社会保障の権利を否定する医療・福祉の改悪は、新型コロナウイルス禍により問題が露呈しています。これを許さず、格差是正、環境保護、持続可能な経済発展を求めます。
 今生きている人は未来に対しても責任をもっています。毎年、世界の食料生産量の3分の1にあたる13億トンの食糧が廃棄されているという食品ロスの深刻な状況など、「誰一人取り残さない」というSDGs(持続可能な開発目標)の達成に思いを寄せなければなりません。水道民営化や種子法廃止など、水や食べ物の安全性が危機にさらされています。こうしたもとで各国の若者のなかで、環境保護の取り組みが広がっていることは特筆すべきことです。
 外国人労働者の受け入れを拡大する改定出入国管理法に基づく新制度が昨年4月から施行されました。異なる民族集団・伝統に生きる人びとの間によりよい関係が築かれるよう、宗教者の立場から声をあげます。

【Ⅲ】 宗教者の平和の願いを総結集する日本宗平協の組織の充実・発展を

 日本宗平協の特質は、多様な宗教が活動する日本の宗教事情に照応し、宗教の違いをこえて①全国に加盟組織と会員を持った恒常的運動体であり、②統一した方針のもとに活動し、③同一機関紙で結ばれ、④独立した財政基盤を持ち、⑤日本の平和と民主主義のために自主的自覚的に運動している諸団体と連携し、⑥国際連帯を追求する、という他に例を見ない宗教者の平和運動組織です。
 3・1ビキニデー久保山愛吉墓前祭、全国理事会、原水爆禁止世界大会、宗教者平和会議の4大取り組みを結節点とする運動に全力で取り組みます。これらを成功させるためにふさわしい体制を取り、常任理事会・事務局会議などを有効に機能させます。
 全国理事会は、日本宗平協の最高議決機関です。一年間の活動を振り返り、情勢を踏まえた新年度の活動方針や人事などを決定します。
 日本宗平協に参加する各地域宗平協や、宗教・宗派別の宗教者平和運動団体()は、それぞれの特徴を生かした活動を展開し、日本宗平協の活動を豊かに発展させると共に、そこで培った成果を日本宗平協に結集します。全国組織にふさわしい宗平協を確立するとともにブロック毎などの連携を強めるために努力します。また、それぞれの宗教・宗派における平和の会などの組織(日本キリスト者平和の会、立正平和の会、真宗平和の会、天理教平和の会、日本友和会など)も同様に活動の前進をはかり、宗教者からの平和活動の発信に努力します。
 昨年は鳥取宗教者平和協議会が10月4日に結成されました。荒川庸生代表理事が参加しました。一方、三重県宗平協の存続ができなく休会となりました。
 世界平和・立憲主義の危機・いのちと地球環境の破壊など平和と民主主義が脅かされる状況を打開していくために、こうした取り組みを日本原水協、原水爆禁止世界大会実行委員会、非核の政府を求める会、全国革新懇、憲法改悪阻止各界連絡会議などに参加し、連帯して平和活動を推進します。
 日本宗平協の諸活動の報告・伝達、各地の活動を反映させることに力を注ぎ、機関紙『宗教と平和』の充実、それを可能とする編集体制の確立・強化に努めます。また、各地域宗平協・各宗教平和の会などとの連携を深め、編集協力の広がりを期します。今年、創立58周年を迎え、日本の宗教者の良心を代表し、歴史の証言者としての役割を継続すべく、内容の充実を期して取り組みます。
 機関誌「宗教と平和」の購読代金を年4000円(送料込み単価1部400円)に改定します。2021年4月号から実施予定します。
 現在の代金の年3000円送料別は消費税5%増の際に送料720円をお願いしたものです。それ以来消費税は8%、10%へ、郵便料金の値上げ、(振込手数料80円が153円)などです。この間紙面の改善、編集作業の工夫など経費節減に努力してきました。
 2020基金をNPT再検討会議など準備金としてお願いしましたが、延期となり、再開時期まで積立金とします。
 日本宗平協に期待されている活動は大変大きなものがあります。日本宗平協の諸活動実践への展望は、その活動を支える財政基盤が保障されなければ活動自体の継続が困難な状況を迎えます。財政基盤の確立・強化は、各地域宗平協などの会費納入時期の協力、寺院・教会などにおいて信者のみなさんへ宣伝・普及の活動などを含めて機関紙発行部数の拡大などにご協力いただき、課題達成へ向けて引き続き努力します。


2020年度
日本宗教者平和協議会
全国理事会について、
 世界中に広がっている新型コロナウイルス感染による制約が私たちの日常生活、平和・社会進歩の運動、医療、営業、学校などに大きな影響を生み出しています。感染予防に最大の注意が必要です。 全国に「緊急事態宣言」で自粛を要請しながら充分な補償なし、スピードが遅い安倍政権にあきれています。
 さて5月開催を予定していたの全国理事会について、感染拡大予防から、やむなく開催を中止し、議題文書の持ち回りで行いました。ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
 書面で議案の評決を行いました。
 その結果、第1号議案活動報告、方針、第2号議案財政報告、第3号議案役員人事、第4号議案規約改正、賛成多数の表明をいただきました。
2020年5月25


2020年度日本宗教者平和協議会
  役  員   
《代表委員》  
榎本栄次(京都)奥田靖二(東京)工藤良任(奈良)桑山源龍(静岡)高木孝裕(大阪)殿平善彦(北海道)宮城泰年(京都)山﨑龍明(東京)
《代表理事》  
荒川庸生(東京)遠藤教温(神奈川)大原光夫(京都)長田 譲(大阪)小野和典(静岡)岸田正博(東京)
平沢 功(埼玉)山本光一(千葉)
《事務局長》
森 修覚(東京)
《監  事》
田中いずみ(東京) 
《常任理事》
安孫子義昭(滋賀)荒川徹真(東京)板先 達(秋田)伊藤地張(静岡)大高敦子(山形)小倉雅昭(大阪)
小山弘泉(東京)岡田隆法(東京)吉川徹忍(広島)小枝 功(東京)佐々木祐恵(愛知)佐野彰義(大阪)
滋野康賢(新潟)新間智孝(兵庫)関 彬夫(千葉)相馬述之(北海道)田邊修一(京都)道家明宗(岐阜)冨田成美(京都)出口玲子(京都)
林 正道(大分)樋口重夫(東京)本多正三郎(千葉)吉川清明(奈良)渡辺大修(鳥取)

大江真道代表委員が5月31日ご逝去されました。代表委員の名簿から削除いたしましたのでご了承ください。

追 悼 
李実根さんと高暮ダム「追悼碑」ー共生への歩み・下

浄土真宗本願寺派僧侶、元私立小中高校教師 吉川 徹忍

3.「高暮ダム朝鮮人犠牲者追悼碑」除幕式
 1993年9月、李さん、藤村先生、田中高野町長、藤原清隆君田村長、安部恵証浄土真宗本願寺派広島別院副輪番、山代巴さん、石田明先生の7人が「高暮ダム朝鮮人犠牲者追悼碑」建設委員会の代表委員を務め、募金を広く市民・文化人や本願寺広島別院などの宗教団体、広島県教職員組合など教育団体に呼び掛けた。
 広島高校生平和ゼミナールに参加した私の教え子の中高校生たちも、他校の生徒たちと広島そごう前街頭や、学園文化祭での募金活動に立ち上がった。市民・団体の募金も併せ500万円で追悼碑が建立された。碑は朝鮮半島から取り寄せた花こう岩で、「過去の日本が行った植民地支配が悲劇を生んだことを反省し、日本とアジアの平和を守る決意を新たにし、日本と朝鮮両民族の変わらぬ友好を誓う」と、過去の反省と未来への決意が刻まれた。
 1995年7月22日、暑い蝉しぐれの湖畔で、「高暮ダム朝鮮人犠牲者追悼碑」除幕式が、地元住民や在日朝鮮人を含め約150人の参列者で営まれた。李さんは代表して、「民族差別で犠牲になった同胞の無念さは計り知れない。これを機に、世界の恒久平和を願ってお互いに新しい未来を築こう」と挨拶。当時ダム建設に従事した朴泳来さんが過酷だった労働を証言。地元中学生や広島高校生平和ゼミナール、広島朝鮮中高級学校の生徒たちは平和への思いを述べた。
 「除幕式の後、堰堤に行きました。苦しんで作られたダムを見ました。…最後にみんなで『アリラン』『ふるさと』を歌えたことに感激しました。日本と朝鮮をつなげる《橋》になれると思いました」(教え子の中学3年男子)。「参加した朝・日両学生達を中心に、参加者全員で冥福を祈った 。…朝鮮人と日本人が共に手を携えて活動したことが、一つの形になった共生への新たな一歩だった。私にとって何より嬉しかったのは、その活動に若い学生世代がたくさん参加してくれたことだった」(李実根、前掲書)。
4.李さんのもう一つの「ふるさと」高暮
 ほぼ毎年、高暮地区自治会(当時・世話役:草谷末廣さん)の運営で「高暮ダム追悼碑前祭」(共催「ふるさと村・高暮の集い」)が開催されてきた。挨拶の中で李さんは、朱鞠内「願いの像」へ連帯の思いにも触れた。地元代表の後、広島高校生平和ゼミナールは「平和の誓い」、広島朝鮮中高級学校は「追悼の言葉」を述べる。在日朝鮮女性同盟広島県本部(委員長:呉栄順さん)の人々は朝鮮式チェサ(追悼)を執り行い、参列者全員で献花、私は読経する。
日朝の生徒たちは李さんの話から、日本の侵略戦争と植民地支配の戦争責任と歴史教育の重要さを学び、李さんの人柄を通して「平和と和解」の大切さを実感してきた。一人ひとりの個性の違いを認め、異なった民族・文化を尊重することの素晴らしさに気づかされてきた。
 高暮地区住民や日朝の生徒たち、在日朝鮮人たちとの出会いを通して、過去に学ぶ「平和国際交流の場」が中国山地の山奥深い高暮の地に出現した。李さんは「地元の人たちや老若男女問わず民族を越えて集う、私のもう一つの『ふるさと』」と満面の笑みだった。
1998年8月、私は韓国での「日韓共同ワークショップ」(1997年、朱鞠内から始まった後の「東アジア共同ワークショップ」)で10数名の日本・在日・韓国の大学生たちを引率して、忠清北道の小さな町に入った。19歳の時、北海道の炭鉱に強制連行された古老への聞き取り調査だった。日本への不信は根強く、古老は「この中に日本人がいる」と語るなり固く口を閉ざした。緊張漂う中、通訳の韓国の女子大生は泣き出した。
 私は広島県高暮ダムで、李さんを中心に住民や日朝の生徒たちが手を携えて実現した、碑建立・碑前祭を報告した。理解をしてくれたのか古老は、日本の戦争責任、強制労働と未補償賃金への積年の怒りを語り始めた。李さんの取り組みと共生への努力は、韓国在住の強制連行体験者の心を開いた。
 おわりに 李さんの思いを継承する意味
 李さんの高暮ダムへの思いと継承の意味を考える。私たち生きている者から犠牲となった朝鮮人労働者への思いを伝えるすべはない。しかし、亡き犠牲者からの思いを私たちの想像力で受け取ることができる。過去の歴史を学び、高暮ダムの堰堤に立って、追悼碑の前で想像し偲ぶ。あの忌まわしい植民地支配のさなか、朝鮮人としての誇りを奪われた若者たちは、異郷の地でどんなに差別され悲しみと苦しみの中でいのち終えたのか。その一つ一つのいのちの証が、ダムの堰堤と追悼碑である。
 民族を越えた交流と歴史を共有して継承し、平和と民主主義・人権を学び、アジアの民族和解を構築しようとする若者たちが育っている。李さんの願いでもあった。李さんの共生への思いは金鎮湖さん(朝被協理事長)が継承される。教え子たちと堰堤を歩いていると、広島朝鮮中高級学校の生徒たちが靴をぬいで歩き始めた。もしやこのダム工事で亡くなった、あるいは堰堤の中に埋められているのは同胞であり、ご先祖かも知れないと。時折見かける光景だがいつも心に沁みる。
 李実根さんに深い哀悼の念を捧げます。 ()

追悼

河崎俊栄日本宗平協代表委員 日蓮宗・本延寺住職死去を偲ぶ


 日本宗平協代表委員、立正平和の会理事長、石川県七尾市本延寺住職の河崎俊栄師が5月20日死去しました。
 24日通夜、25日葬儀が行われました。
 日本宗平協の森修覚事務局長はじめ、立正平和の会の伊藤地張師、遠藤教温師、小野文珖師、石川浩德師と地元石川県宗教者平和協議会の鳥越順丸事務局長、藤井秀信師らが参列しました。
鳥越順丸師が以下の弔辞を述べました。

 5月20日に訃報の知らせが入り、冷静に受けとめたつもりでしたが、「石川宗平協をこれからどうしたらいいのか」と、とっさに考えてしまいました。
 思いかえせば11年前、2009年9月16日に石川宗平協が結成されました。結成前、私のお寺に来られて「私、河崎と藤井さん、そしたあなたの3人だけでもいいじゃないか」と言われ、石川県内の宗教人の政治社会に対する姿勢を明らかにする団体の結成に取り組み、日本宗平協や石川県内の民主団体の方々の御指導・御協力のもと、17名もの会員を迎えて結成されました。この時の記念写真を見ても、河崎理事長さんのすがすがしいお顔は、それ以来、ずうっと続き、七尾から金沢まで往復し、あらゆる平和運動や社会市民活動に参加されました。
 そして、「世界は平和じゃなくっちゃ…」といつもつぶやいておられました。とくに、ニューヨークでの5年毎の核不拡散条約(NPT)再検討会議への参加や3月1日の静岡県焼津市でのビキニデーへの参加、広島・長崎原爆投下への抗議断食の行への参加を通じて、強く、核の脅威を訴え、廃絶への道を研究実践しておられました。特に最近は、「ヒバクシャ国際署名」への行動に力を入れ、私に「頼むぞ」と頼まれていましたが、未だ具体的な取り組みをしていないことを、ここに報告することはつらいことです。
 日本宗平協の標語「平和の祈りを行動の波へ」を、そのまま実践され、この心意気を私たち石川宗平協はしっかり受け継ぎ、実践してゆく取り組みを早急に協議します。
 パソコンの打てない私の読みづらい文章をいつも我慢して読んで頂き、今日も手書きの弔辞となりました。寛大に宜しくお願いいたします。ありがとうございました。合掌