2018年全国理事会開催
日本宗教者平和協議会
2018年日本宗教者平和協議会拡大全国理事会が、21日、22日の両日、東京都内で開催されました。北海道から九州大分まで、各地から30名以上の参加で二日間の討議が行われました。
荒川庸生理事長の開会挨拶に続き、議長団には、小山弘泉東京宗教者平和の会事務局長・平沢功副理事長が選任されました。
初日午後は、本年度の運動方針案、財政報告案、人事案等が、森修覚事務局長から一括提案されました。
はじめに、昨年ニューヨークの国連本部で採択された核兵器禁止条約が、一刻も早く批准・履行されていくこと、そのための宗教者の役割が問われていることを確認しました。そして、4月に行われた南北朝鮮の首脳会談、5月の日中韓三国首脳会談、6月予定の米朝首脳会談に期する世界の情勢が示されました。
国内では、①「森友」「加計」問題に端を発する公文書改ざん・事実隠ぺい・データねつ造②日本国憲法に真っ向から背く「戦争する国」づくり諸法に反対する運動③憲法改悪への具体的な道筋を示す動きが顕著になる中、憲法擁護という市民と野党の共働をすすめていく中で以下の議事を進めました。
Ⅰ:安倍政権の戦争する国づくりを許さない
Ⅱ:「平和の祈りを行動の波へ」のスローガンのもと、(1)改憲阻止、天皇の「代替わり」 信教の自由・政教分離のために (2)核兵器廃絶、3・1ビキニデ―墓前祭と原水爆禁止世界大会 (3)日本宗教者平和会議(本年度は山形開催)(4)沖縄県民と連帯し、辺野古新基地建設を許さないたたかい(5)原発ゼロ環境を守るために(6)個人の尊厳・人権擁護・格差是正
Ⅲ:宗教者の平和の願いを結集する日本宗平協の組織の充実・発展を ①日本宗平協の特質 ②4大取り組み(3・1ビキニデー墓前祭・全国理事会・原水爆禁止世界大会・宗教者平和会議)を結節点とする活動への取り組み ③全国理事会の開催と充実 ④地域宗平協の拡充、各宗教・宗派(教団)での共働 ⑤平和と民主主義の確立を願う諸団体との連帯 ⑥機関紙『宗教と平和』の充実 ⑦活動を支える財政基盤の確立・強化(詳細別掲)
『森を見て木を見ず』が「アホノミクス」
「浜矩子言いたい放題」講演
講演では、同志社大学大学院教授の浜矩子さんが、『浜矩子言いたい放題』のタイトルで、現政権の矛盾と欺瞞を語りました。
ある団体から『改憲だけなのかアベノミクス、新三本の矢はどこに ~1億総活躍社会、働き方改革、全世代型社会保障~』というタイトルでいかがでしょうかというご提案を頂いた。このテーマでは「木を見て森見ず」です。
アベノミクスは、世界制覇的志向であり、生計を営む個々の人間に目を向けていない。円の価値を軽視していると世界に見放されて、日本経済は崩壊の途をたどる、と警鐘を鳴らし続けている浜さんの一言一句が会場に響きました。
●『新3本の矢』と改憲は完全に同じ根から発している●安倍政権の主張は、『世界の真ん中で輝く国づくり』●私(浜)はそもそも『国づくり』を彼(安倍首相)に頼んだ覚えはない●問題は、『木を見て森を見ず』ではなく、『森を見て木を見ず』の状態にあること●『戦後レジームからの脱却』=戦前回帰●『働き方改革』…相手の土俵で相撲をとらない、敵の言葉を使い語るな●『高度プロフェッショナル』法案→『残業代ゼロ』は言い得て妙…わずか1時間の講演でしたが、その内容の発信力の大きさを感じました。
講演後山崎龍明師(浄土真宗本願寺派)より講話があり、浜さんの講演から、宗教者の方向性が一層明確になったことを確認しました。
二日目は、初日の提案に対する討議と各地域宗平協や各宗教・教派の平和の会等からの報告等も続き、諸案件・アピールが採択されました。大江真道副理事長の挨拶で二日間の理事会を終了しました。
日本宗教者平和協議会2018年度運動方針
■はじめに
日本宗教者平和協議会(日本宗平協)は、1962年4月12日の結成以来、宗教者・教団の戦争協力・加担の責任の自覚とその反省に基づき、宗教・信仰の違いをこえて手を携え、生きとし生けるものの尊厳を守り、信教の自由・政教分離、9条改憲阻止、被爆者援護・連帯、核兵器のない世界、原発ゼロなどの諸行動に「平和の祈りを行動の波へ」と戦争と平和の課題に具体的に草の根から取り組んできました。
安倍晋三首相が、「2020年を新しい憲法で迎える」と表明し、「改憲」発議を狙うなど、日本国憲法が施行後最大の危機を迎えています。こうしたもとで、自らの体験に真摯に向き合い、戦後を歩まれてこられた先達に思いを馳せ、いのちと平和、不戦と民主主義のための56年にわたる歩みに確信を持ち、被爆国日本の現代に生きる宗教者としての役割を発揮していく決意です。
韓国と北朝鮮の首脳会談で署名した「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」は、朝鮮半島の「完全な非核化」、北東アジアの平和体制の構築、民族分断を終わらせ、民族的和解と平和繁栄の新たな時代などに合意しました。この歴史的な成果を心から歓迎するとともに、この成果を踏まえ、6月12日に開催される米朝首脳会談が大きな成功をおさめることを強く期待するものです。敵対行動や挑発的行動など暴力や恫喝の連鎖を断ち切り、こうした新たな動きを、何としても対話と交渉による平和的解決のチャンスとして実らせましょう。
広島、長崎への原爆投下から72年を目前にした昨年7月、ニューヨークの国連本部で核兵器を明文上も違法化した核兵器禁止条約が採択され、「核兵器のない世界」への新たな展望が開かれました。ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のノーベル平和賞受賞やローマ教皇の被爆者との謁見などは、その象徴的なできごとでした。宗教教団からも条約への署名・批准を求める声が上がっています。市民の声が平和を創る時代を迎え、市民社会の役割は飛躍的に大きくなろうとしています。
「核兵器と人類は共存できない」「核兵器は必要悪ではありません。究極の悪です」(セツコ・サーローさん、ノーベル平和賞授賞式演説より)――今こそこの被爆者の声を全世界にひろげ、核兵器禁止条約に署名・批准する日本とするためにも、内外の宗教者に「ヒバクシャ国際署名」に賛同・署名し、国民運動の前進に寄与するよう呼びかけます。
安倍政権はいま、内政、外交ともに大破綻に陥り、政権を根底から揺さぶる大激動に遭遇しています。しかし、安倍政権は、憲法9条改憲の野望をあきらめてはいません。「3000万人署名」を推進し、9条改憲阻止の国民的多数派をつくる歴史的使命を果たしましょう。改憲反対の声は宗教教団のなかにも広がり、この間、「生長の家」や真宗大谷派(東本願寺)、日本カトリック司教協議会、日本基督教団などが、安倍9条改憲案に強く反対しています。
「アベノミクス」で貧困は改善するどころか拡大しています。自公政権は、「人生100年時代構想」を掲げていますが、肝心の高齢期に受け取る年金は減り、1人暮らしの高齢者が増えるなか、今年4月からは「年金カット法」(16年成立)による新たな仕組みが施行され、減り続ける年金でいいのか、低年金や無年金の問題が大きくのしかかっているもとで、病院での受診抑制や中断などによる治療の手遅れ、「直葬」なども増加の一途をたどっています。大企業や富裕層のための政治から国民のための政治への切り替えが求められています。
国会では、公文書の改ざん、隠ぺい、データねつ造など憲法破壊、国民主権と議会制民主主義破壊の安倍強権政治の矛盾がいっせいに噴出し、日本の民主主義の危機が広がっています。この安倍政権に憲法を語る資格はありません。やるべきは憲法を変えることではなく内閣総辞職です。
日米安保条約を地球規模の軍事同盟に根本的に変質させた日米新ガイドラインと安保法制=戦争法のもとで、「戦争する国」づくりがすすんでいます。
日本国憲法に真っ向から背く、特定秘密保護法、戦争法(安保関連法)、共謀罪に反対する国民的運動がかつてない規模で市民社会に広がり、宗教者も宗教・教派を超えて、「殺すな、殺させるな、殺すことを許すな」と歴史的たたかいの一端を担ってきました。引き続き、憲法改悪と戦争の危険な動きに反対し、二度と戦争の惨禍を繰り返さないために「戦争法」廃止、沖縄の「島ぐるみ宗教者の会」に連帯し、日米安保条約の廃棄、新基地建設反対、基地のない沖縄、原発の再稼動を許さず、「原発ゼロ」など、いのちと平和な未来にかかわる諸課題に、国民的運動の共同の教訓を活かし、市民と野党の共闘という壮大なたたかいに合流し、現在と未来のために情勢にふさわしい宗教者の取り組みをすすめます。
外交でも、「対話否定」に固執し、米軍の軍事力行使を容認し続けてきた安倍政権の北朝鮮対応は破綻を示しています。日本政府は日本国憲法に照らして、トランプ政権に追随し、武力攻撃など法の支配を突き崩す行動への支持や理解を示すことは断じて許されません。安倍政権の暴走にストップをかけ、早期退陣に追い込みましょう。
【Ⅰ】 安倍政権の「戦争する国」づくりを許さない
安倍政権は、小選挙区制のゆがみのもとで国会の多数を握り、9条改憲など「戦争する国」づくりへの暴走をつづけています。安倍自公政権の常軌を逸した行政の私物化が森友・加計問題などで鮮明になっています。公文書改ざん、データのねつ造、「日報」の隠ぺい、「口裏合わせ」など、国民の代表である国会の対して平気でウソをつき、逃げ切りを図ろうなどということは断じて許されませんし、安倍首相は行政権力の長としての責任は免れません。民主主義の土台を突き崩す前代未聞のこうした不祥事に、政権与党は自ら浄化能力を発揮できないでいます。政治、行政にとって根本にあるべき権威と信頼が失墜し、壊されつつあります。
立憲主義の回復のための取り組みが緊急に求められています。私たちは、広範な宗教者、教団・団体がわが国の平和と国民のいのちを危険にさらす「戦争法」の撤回、特定秘密保護法や「共謀罪」の廃案などを求め、改憲右翼団体「日本会議」と一体に突出した危険性を露にしている安倍自公政権と対峙してきました。
戦前・戦中、「治安維持法」によって、私たちにとってかけがえのない信仰・教理にまで踏み込み、宗教団体・教団までもがいつの間にか捜査対象とされ、宗教教団、宗教者が弾圧され、深刻な人権侵害、基本的人権の蹂躪を招きました。思想・信条・言論にたいする取り締まりと弾圧がくり返された歴史、国民監視社会の再来を断じて許す訳にはいきません。また、歴史逆行の「教育勅語」の道徳の教材化などの「復権」を厳しく糾弾するものです。
創価学会・公明党は、自公連立政権による政治の安定は、多くの国民の支持を勝ち得ている。自民党と力を合わせて、政治と社会の安定、政策実現にまい進したいなどと安倍政権の暴走に加担し、「戦争する国」づくりのアクセルを踏み続けています。安倍自公政権の悪政を推進に加担する創価学会・公明党の態度に、国民の厳しい批判は避けられません。
【Ⅱ】 「平和の祈りを行動の波へ」
(1)改憲阻止、天皇の「代替わり」、信教の自由、政教分離のために
安倍政権の改憲策動を許さず、日本国憲法の定める「思想・信条の自由」(19条)、「信教の自由」(20条)、「表現の自由」(21条)の市民的自由が全面的に保障される社会をめざしましょう。各人の思想・良心の自由に合理的な根拠もなく立ち入ることは許されません。憲法9条改憲、「戦争する国づくり」の完成を許さず、この大原則を守り広げましょう。
政府は4月3日の閣議で、天皇の退位と皇太子の即位について、国会などにまったく諮ることなく関連式典の基本方針を一方的に決定しました。その内容は、「平成の代替わり」の式典の「基本的な考え方や内容は踏襲されるべき」だとして、前回と同様、「剣爾等承継の儀」「即位後朝見の儀」「即位礼正殿(せいでん)の儀」「大嘗祭」などの儀式を国事行為や国家的行事として行うとしています。これらは、憲法にもとづく国民主権や政教分離の原則に照らしても、また、宗教の平等性の観点からも、大きな問題があります。憲法の原則と両立しない基本方針は根本的に見直すべきです。
自民党・安倍政権は、戦後の「平和な日本」を屈辱的な「戦後レジーム」と否定し、戦前のような「強い日本を取り戻す」ためにと憲法改正に執念をもやすなかで、ナショナリズム喚起のために「明治150年」のキャンペーンを張っています。
中央教育審議会(中教審)の答申を受けて文部科学省は2015年、「道徳」を格上げする学習指導要領の改定案を発表しました。小学校では今年4月から、中学校では19年度から、これまで「教科外活動」だった「道徳の時間」が「特別の教科」となり、検定教科書を使用した授業と、文章による成績評価が始まることになります。 社会規範の乱れを憂慮する立場から情操教育の必要性を説く声や国家主義的な「愛国心教育」を危惧する声など、宗教界でもさまざまな議論がなされてきました。公共のモラルが「国家への奉仕」を子ども達の心に喚起する「修身」にすり替えられる危険性を、私たちは見つめなければなりません。
安倍政権は、番組の公平・公正、不偏不党、事実を伝えるという「放送法」4条の撤廃の企てなど、国民の思想、情報、宣伝に重要な影響をもつマスコミへの介入を強めています。「表現の自由」「知る権利」を守り、民主主義と言論の自由、主権在民や信教の自由、政教分離を定めた日本国憲法を守り抜くことが求められています。
(2)核兵器廃絶、3・1ビキニデー・墓前祭と世界大会
核兵器の禁止・廃絶への歴史的な第一歩が踏み出されました。被爆の実相と核兵器の禁止・廃絶を求める被爆者の声が国内外にひろがり、核兵器の非人道性にたいする理解が国際社会の共通認識になるなか、昨年7月、日本宗平協の代表もニューヨーク要請行動に参加するなかで核兵器禁止条約が採択され、核兵器は人類史上はじめて明文上も違法化され、あらゆる兵器の中でもっとも残虐な核兵器に「悪の烙印」を押しました。
市民社会を明記した核兵器禁止条約は、核兵器廃絶の呼びかけに示された人道の諸原則を推進するための公的(市民的)良心の役割を強調し、国連、国際赤十字運動、その他の非政府組織、宗教指導者、国会議員、学術研究者、ヒバクシャ(Hibakusha)の取り組みを確認し、ICANのノーベル平和賞受賞の意義をグテレス国連事務総長は、「核兵器が使用された場合の人道的、環境的結末を世に知らしめてきた市民社会の努力が認められた」と述べました。市民の世論と運動が世界を動かす時代を迎えつつあります。
日本政府と核保有国は、北朝鮮問題を最大の口実に、核兵器を「安全の保証」と核抑止力論を主張し、みずからも合意した核兵器廃絶に公然と逆行しています。「核抑止力」が問題の解決にならないばかりか、核破局の危険を高めるものです。
日本カトリック司教協議会社会司教委員会は、核兵器禁止条約への署名・批准を求める要望書を日本政府に送付しました。
絶対に戦争してはなりませんし、許してはなりません。戦争は破滅への道です。国民の税金で米国製の武器を購入するなど、莫大な軍事費が浪費されようとしています。 対話と交渉こそが唯一の選択肢です。「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれ(戦争、武力行使、その威嚇)を放棄する」との憲法9条こそが導きとなるべきです。
核兵器禁止条約を実現し、全面廃絶へと前進させるために、被爆者が呼びかけた「ヒバクシャ国際署名」をさらに宗教界にひろげ、被爆の実相の普及、被爆者支援連帯など、反核平和の取り組みをいっそう前進させます。
トランプ米政権は2月、新たな核戦略(「核態勢見直し」)を発表し、「使いやすい」低威力の核兵器の新たな開発、海洋発射の核巡航ミサイルの再配備など、核兵器使用の姿勢を一層あらわにしました。
日本宗平協は、主催する久保山愛吉墓前祭はもとより、「3・1ビキニデー集会」の成功に寄与するとともに、独自に昨年11月にバチカンでの国際会議に参加し、ローマ教皇に謁見した日本被団協の和田征子事務局次長をお招きし、宗教者平和運動交流集会を開催しました。
5月6日に東京・夢の島の第五福竜丸展示館前をスタートした「2018年国民平和大行進」に合流し、全国各地からの核兵器廃絶の願いを、被爆73年を迎える8月の広島・長崎で開かれる原水爆禁止世界大会とその関連行事「いのちをえらびとる断食のいのり」を成功させるとともに、広島での「原爆犠牲者追悼の祈り」と「灯ろう流し」、そして、長崎での「非核・非戦法要」への参加など、宗教者の独自の取り組みを通して平和の訴えを広めていきます。被爆地の宗教者との交流・連帯、全国各地で取り組まれている「平和の鐘」打鐘や「原爆展」開催、被爆者援護募金、署名行動などを含めて、世界大会に呼応した運動を展開します。
憲法9条と非核三原則を輝かせ核兵器廃絶の先頭に立つ日本とするために奮闘し、2019年の被災66年のビキニデー諸集会と墓前祭をふさわしく成功させます。
(3)日本宗教者平和会議
10月の国連軍縮週間に呼応する日本宗教者平和会議は、日本宗平協が主催し、開催地をはじめ広範な宗教者に参加をよびかけて開催してきました。日本宗教者平和会議開催の意義は、毎年時宜にかなったテーマを設定しながら平和を希求する宗教者としての学びを具体的な実践に結びつけていくことにあります。
昨年は、台風来襲の影響で開催が危ぶまれるなか、長崎・真宗大谷派長崎教会で開催し、真宗大谷派長崎教区の清原昌也住職に「非核非戦の碑の歴史と願い」と題して講演いただきました。被爆者の松谷英子さん、長崎被災協の田中重光会長のお話を伺い、翌日は「岡まさはる平和記念館」や田中会長の案内で平和資料館、平和記念公園などで説明を受けました。その後、軍艦島(端島)に上陸し、翌日は佐世保の軍港を船で回り、弓張岳の展望台から佐世保港全体を見学し、今年3月に発足した水陸機動団(司令部・佐世保市相浦駐屯地)など〝海兵隊〟化し、「戦える軍隊へ」変貌する自衛隊、日米共同即応体制が強化され、出撃拠点化が着々とすすむ佐世保基地の実態、「戦争する国」づくりが具体的に進められている様子を学ぶことができました。
今年の日本宗教者平和会議は、「平和への権利―国連宣言と平和ピラミッド構想」(仮題)をテーマとする基調講演を受け、核兵器禁止条約の締結など画期的・歴史的な動きを実らせ、市民社会の役割などについて学習・交流しようと山形県鶴岡市において、10月22~24日(オプションを含む)の日程で開催を予定します。
(4)沖縄県民と連帯し、辺野古新基地建設を許さない
一昨年暮、オスプレイが名護市沖で墜落大破する事故に引き続き、沖縄では軍用機の相次ぐ不時着や小学校や幼稚園への装備品の落下などのトラブルが後を絶ちません。沖縄だけでなく、米軍機による重大事故が相次いでいます。日米地位協定の一日も早い抜本的改正など、憲法9条にふさわしい安全保障政策の実現と、民意無視、強権的な米軍新基地建設を許さず、基地被害根絶のために、沖縄県の広範な宗教者によって結成された「辺野古新基地を造らせない島ぐるみ宗教者の会」(略称・島ぐるみ宗教者オール沖縄)のたたかいを「オール沖縄」から「オールジャパン」のたたかに広げるために力を尽くします。日本宗平協はこの間、沖縄各地で「平和の鐘」を打ち鳴らし、祈りと連帯の行動をひろげ、1月の名護市長選挙の支援などに取り組んできました。
1月におこなわれた名護市長選挙では、前回は「自主投票」だった公明党は渡具知武豊候補の推薦にまわり、基地問題を一言も語らず、争点をぼかし、公明党都議をはじめ大量の学会活動家が沖縄に入り、原田稔会長自身も沖縄総県代表幹部会に出席して学会員の説得・動員にあたるなど、「海にも、陸にも基地を造らせない」と3選をめざした稲嶺すすむ市政への敵意をむき出しにし、基地容認派の当選に奔走するなど、普天間基地の無条件撤去、辺野古新基地建設の中止・撤回、米海兵隊の沖縄からの撤退という県民の命と安全を守る唯一の解決策に背を向ける態度を取りました。
名護市辺野古に軍港を持つ耐用年数200年という新基地建設を許せば、米海兵隊の海外侵攻、「殴り込み」作戦のための一大出撃拠点として飛躍的に強化されることになります。米軍が土地を強制接収して基地を造った歴史を出発点に、現在も極めて過重な基地負担を強いられており、「辺野古新基地建設は決して容認できない」「美しい宝の海を守ろう」との世論と運動を全国でいっそう強めつつ、基地のない沖縄をめざし、8月の県内統一地方選挙、11月に行われる沖縄県知事選挙の支援などに取り組みます。
(5)原発ゼロ、環境を守るために
生きとし生けるもののいのちと、かけがえのない地球をまもり、原発に依存しない社会を目指していくことは不可欠です。大きな犠牲をもたらした東日本大震災から7年。東京電力福島第1原発の重大事故はいまだに収束せず、住民の避難生活も続いています。
廃炉の費用、「核のゴミ」の処理費用など、子々孫々まで巨額の費用を押し付けるのが原発です。
原発の即時停止と廃炉を求める「原発ゼロ基本法案」を野党が共同して提案しました。いまこそ、原発ゼロと再生可能エネルギーへの転換を決断すべきです。
しかるに安倍内閣は、原発被害者を愚弄し、福島の重大事故を引き起こした責任の重さを消し去り、ふたたび「安全神話」をまき散らし、原発にしがみつき、推進する姿勢をあらわにしています。
政府・東電は避難指示解除とあわせて賠償などを打ち切り、「原発事故幕引き」をすすめています。こうした被害者切り捨てを許さず、連帯して被害者救済を勝ち取ろうと「原発被害者訴訟原告団全国連絡会」が結成され、各地で「原発避難集団訴訟」がたたかわれています。国と東電の法的責任を徹底的に追及し、原状回復と完全賠償を求め、国など行政に被害者救済策を要求するなど、原発事故のために不条理にも平穏な生活を突然断ち切られ、なれ親しんだ生活空間から切り離された被災者の思いに寄り添い、原発のない社会、住民訴訟支援に取り組みます。原発推進のため、福島原発事故を「終わったこと」にしようとする安倍政権を退陣に追い込むことが必要です。
原発存続をねらって7月に発効30年の期限を迎える日米原子力協定が自動延長されようとしています。核燃料サイクルの破たんは明確であり、延長反対、核燃料サイクルからの撤退を求めます。日本はすでに使用済み核燃料から取り出した核兵器の原料となるプルトニウム、約48トンを国内外に保有しています。安倍政権は昨年10月、使用済み核燃料の再処理を着実に実施するための認可法人使用済燃料再処理機構を発足させ、核燃料サイクル政策に固執し、国民の負担のもと再処理事業の恒久化を図ろうとしています。
地震・火山国で過酷事故の危険性をはらみ、「核のゴミ」の処分も見通せない原発の再稼動をしゃにむに急ぐのは横暴の極みであり、必要性もない原発の再稼動は直ちに中止すべきです。
この間7回にわたって継続して取り組まれてきた「いのりのつどい」の開催に引き続き協力するなど、東日本大震災・原発事故被災地を訪れ、それぞれの宗教・宗派による「祈り」を行い、被災地の人びととともに原発ゼロを願う活動を継続していきます。
「核兵器とも原発とも人類は共存できない」は宗教者としての基本的命題であり、原発廃止・再稼動反対を、原発被害者支援活動と併せて主要課題として取り組んでいきます。
(6)個人の尊厳、人権擁護、格差是正
安倍自公政権は、格差を拡大し、子どもの貧困を増大させ、長時間労働、低賃金の解決を妨げています。子ども、女性、若者、高齢者、障がい者、LGBTなどの人権が尊ばれ、一人ひとりがふさわしく受けられるべき教育、雇用、医療の諸課題などに背を向け、強者・政治権力の「弱者」に対するおごりや切り捨てがあふれています。最近政府高官、地方行政の長、著名な芸能人などにあきらかになったセクシャルハラスメントは、日本社会に人権軽視の風潮が未だ根強いことを如実に示しています。
憲法は法の下での平等、個人の尊厳と自由を定めています。人間の平等を基本に、貧困や差別のない社会、女性、子ども、高齢者など、弱者や少数派の権利と尊厳を守り擁護します。
民族的権利の保障と伝統文化の継承・発展、民族の尊厳を保障するとともに、差別と暴力をあおる民族排外主義をスローガンにして、特定の民族や人種、集団、とりわけ在日コリアンの人びとへのヘイトスピーチは断固として根絶しなければなりません。
朝鮮半島の植民地支配による加害と被害にたいする宗教教団の戦争責任を絶えず問いつづけなければなりません。歴史はなかったことにできません。「慰安婦」問題など、戦争の過ちを直視し、「記憶」を保持しつづけ、語り継ぐ「継承」の責務が人類にはあります。
関東大震災朝鮮人犠牲者追悼行事へ、東京都知事は「追悼の辞」を寄せるのを取りやめました。朝鮮人強制連行・強制労働とそれに伴う広島・長崎での被爆死を生んだ歴史などを想起し、こうした問題を記憶に留め、伝えつづけることこそが未来への展望を開くことになります。戦争責任への視点を決して曇らせてはなりません。
日本会議や家庭連合(旧統一協会)などの動向に引き続き注視していかなけれなりません。また、神社本庁による有名神社の人事権を握ろうとする動きにも厳しい目を向け続けなければなりません。
警察による一般市民の監視、情報収集など言語道断です。憲法13条の「幸福追求の権利」、第19条の「思想良心の自由」の擁護のために引き続き努力します。監視社会を強化する「共謀罪」の廃止を求めます。
憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とありますが、安倍政権は「助け合い」などの美名のもとに、公的責任を後退・曖昧化させ、国民に保障されているはずの社会保障の権利を否定する医療・福祉の改悪を推し進めています。生活保護削減予算は160億円です。米軍への「思いやり予算」など米軍経費の来年度の増加分195億円を充てれば、おつりがきます。政府のすすめる「働き方改革」は、労働者側ではなく財界側の立場にたった「働かせ方大改悪」に他なりません。
2018年度予算に計上された軍事費(防衛関係費)は増額の一途をたどり、過去最高を4年連続で更新し、5兆円を超えています。最大の特徴は、北朝鮮の弾道ミサイル発射に対応する態勢強化のためとして、イージス・アショア関連経費をはじめオスプレイやF35Bステルス戦闘機も増強し、米国からの高額兵器の調達は4000億円以上にものぼるなど、際限のない軍拡の道に踏み出そうとしていることです。 憲法違反の安保法制(戦争法)に基づき、自衛隊の「海外で戦争する軍隊」への改造も一層推進しようとしています。危険極まりない軍拡要求です。
米軍横田基地へのオスプレイ配備を許せません。主権放棄の日米同盟関係の見直し、不平等さの元凶である日米地位協定の一日も早い抜本改正こそが必要です。
格差を是正し、環境を守り、すべての人の益となり、持続可能な経済発展を求めるとともに、異なる民族集団、異なる伝統に生きる人々の間によりよい関係が築かれるよう、平和を願う世界の市民の正しい行動と正しい考えに信頼を寄せ、宗教者の立場から声をあげ、日本と国民の安全を守り抜きましょう。
【Ⅲ】 宗教者の平和の願いを総結集する日本宗平協の組織の充実・発展を
① 日本宗平協の特質
日本宗平協の特質は、多様な宗教が活動する日本の宗教事情に照応し、宗教の違いをこえて①全国に加盟組織と会員を持った恒常的運動体であり、②統一した方針のもとに活動し、③同一機関紙で結ばれ、④独立した財政基盤を持ち、⑤日本の平和と民主主義のために自主的自覚的に運動している諸団体と連携し、⑥国際連帯を追求する、という他に例を見ない宗教者の平和運動組織です。
② 4大取り組みを結節点とする活動への取り組み
3・1ビキニデー久保山愛吉墓前祭、全国理事会、原水爆禁止世界大会、宗教者平和会議の4大取り組みを結節点とする運動に全力で取り組みます。これらの取り組みを成功させるためにも、任務にふさわしい体制を取り、常任理事会・事務局会議などを有効に機能させます。
③ 全国理事会の開催と充実
全国理事会は、日本宗平協の最高議決機関で、この間の活動を振り返り、情勢を踏まえた新年度の活動方針や人事などが決定されます。名実ともに最高議決機関となるためには、前年の全国理事会で選出された理事ほか役員はもとより、各地や各宗教・各宗派で新たな役員になる可能性のある会員の人選や、文書発言も含めて広く参加できるような体制の構築に引き続き工夫が必要です。日本宗平協の諸活動において、絶えず全国理事会決議に照らし合わせて具現化を図ります。人事も、この決定を実践する先頭に立つ役員であり、それぞれが責任を分担し役割を果たすことが期待されます。
④ 地域宗平協の拡充、各宗教・宗派(教団)での協働
日本宗平協に参加する各地域宗平協や、宗教・宗派別の宗教者平和運動団体(会)は、それぞれの特徴を生かした活動を展開し、日本宗平協の活動を豊かに発展させると共に、そこで培った成果を日本宗平協に結集します。地域宗平協においては、各地域において積み上げて来た実践の充実や地域間での交流も含めて日本宗平協の活動への協力・共同の一層の推進を期します。全国組織にふさわしく47都道府県に宗平協を確立するために努力します。また、それぞれの宗教・宗派における平和の会などの組織(日本キリスト者平和の会・立正平和の会・真宗平和の会・天理教平和の会・日本友和会など)も同様に活動の前進をはかり、宗教者からの平和活動の発信に努力します。
⑤ 平和と民主主義の確立を願う諸団体との連帯
世界平和・立憲主義の危機・いのちと地球環境への破壊など平和と民主主義が脅かされる状況を打開していくために、こうした取り組みを日本原水協、原水爆禁止世界大会実行委員会、非核の政府を求める会、全国革新懇、憲法改悪阻止各界連絡会議などに参加し、連帯して平和活動を推進します。
また「埼玉宗教者・市民懇談会」主催で宗教者と市民が共同で、「沖縄のための祈り」(15年)や「平和のための諸宗教による祈りのつどい」(16年)などを開催してきました。これらの取り組みをさらに発展させるとともに、各地の「九条の会」などとも連携し、平和憲法を守り、活かす実践をすすめます。
⑥ 機関紙『宗教と平和』の充実
日本宗平協の諸活動の報告・伝達、各地の活動を反映させることに力を注ぎ、機関紙『宗教と平和』の充実、それを可能とする編集体制の確立・強化に努めます。また、各地域宗平協・各宗教平和の会などとの連携を深め、編集協力の広がりを期します。創立時の発刊から幾多の苦労・変遷を経て2010年には500号を達成し、今年、創立56周年を迎え、日本の宗教者の良心を代表し、歴史の証言者としての役割を継続すべく、内容の充実を期して取り組みます。
⑦ 活動とそれを支える財政基盤の確立・強化
以上の報告・方針に照らして、日本宗平協に期待されている活動は大変大きなものがあります。空白地域の宗平協の結成・促進に努めると共に、加盟各団体・各地宗平協においても、会員読者の拡大に格段の努力を得られるように呼びかけます。
日本宗平協の諸活動実践への展望は、その活動を支える財政基盤が保障されなければ活動自体の継続が困難な状況を迎えます。4大取り組みへの諸準備と実践、恒常的な活動の維持などを支える財源は、会員・読者の活動に負うところが大きく、機関紙発行の財源や平和活動への支援など大変厳しい状況にあることは否めません。
財政基盤の確立・強化は、各地域宗平協などの会費納入時期の協力、寺院・教会などにおいて信者のみなさんへ宣伝・普及の活動などを含めて機関紙発行部数の拡大などにご協力いただき、課題達成へ向けて引き続き努力します。
“非国民”とは 誰か?➁ 池住 義憲
自民改憲の動き
自民党の2012年憲法“改正”草案は、私たちがこれまで70年間護ってきた憲法三原則そのものを、根底から変えようとするものです。国民主権は縮小。戦争放棄は放棄。基本的人権は制限…。第二章タイトルは、「戦争放棄」から「安全保障」に変更。戦争は「永久にこれを放棄する」から、「用いない」に替える。戦力不保持と交戦権否認規定は削除し、「自衛権の発動を妨げるものではない」を書き加える。さらに、国防軍の保持、軍事裁判所の設置、国民の領土等保全義務なども明記、等々…。
さすがにこのままの“改正”案では国民の支持が得られないと判断した自民党憲法改正推進本部は、戦略を変更。本年(2018年)3月に、(1)9条改正、(2)参院選の合区解消、(3)大規模災害時に政府に権限を集中し国会議員の任期特例を書き込む緊急事態条項、(4)教育無償化、この四つに絞り、「改憲4項目」その方向性を取りまとめて党大会に報告しました。
当初は条文案をまとめ、国会に提出する予定でした。しかし、昨年来の森友・加計問題に続く公文書改ざん問題、内閣支持率急落などで、方向性とりまとめに止めざるを得なくなりました。しかし、2020年“改正”憲法施行へむけた改憲スケジュールは変えていません。
こだわる「緊急事態条項」
自民党の「改憲4項目」のうち、3つ目の「緊急事態条項」を盛り込むことのこだわりは、異常につよい。まだ確定してませんが、条文案取りまとめを大会で一任された細田博之・党憲法改正推進本部長がいま詰めている素案は、次の通りです。
【第64条の2】
大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
【第73条の2】
大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
国家緊急権とは、有事や自然災害の際に内閣の権限を強めるものです。法律と同じ効力をもつ政令を、国会の手続きを経ずに内閣の判断で定めることができるのです。緊急時の私権制限も可能で、内閣への権限集中は絶大になります。これは、1933年のナチスの全権委任法(授権法)と同じです。
国家緊急権は、なし崩しの権力強化につながりかねない。大規模災害だけでなく、有事すなわち将来の集団的自衛権行使や内乱などへの対応をも含んでいます。そうしたこともあって自民党執行部は、大規模災害時に限って一任を取り付けたのではないか、と思います。
9条改憲の中身
現在取りまとめている自民党の9条改憲案は、9条1項と2項を維持して新たに「9条の2」を設け、次にように加えるというものです。
【第9条の2】
前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げす、そのために実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
自衛隊の目的・任務は、「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置」、すなわち「自衛権」を行使することができることを明記する、としています。自衛権の行使とは、国連憲章51条にいう「集団的自衛権」の行使も含まれる、と読み取れます。
また、「必要最小限の実力組織」としていたこれまでの政府解釈から、「必要最小限の」を削除してあります。これにより従来の「武力行使の3要件」も突破され、武力行使は実質的に無制限となります。その結果、現行憲法9条1項と2項は実質的に破壊、否定されることになってしまいます。
2013年12月「特定秘密保護法」、2014年4月「防衛装備移転三原則」、2015年9月「安全保障関連法」、2017年6月「共謀罪法」(改正組織的犯罪処罰法)など…。そして衆参両院で三分の二の議席を得た政権与党は、いま、改憲に向けて動き出しています。
これらを一言でいえば、私は「多数派による数の暴力行為」だと思います。 多様な民意を適正に反映しない歪んだ選挙制度下で、多数を得た政権与党。それが、民意に反する憲法違反の法律を次々と強行採決、強行成立させている。一強多弱の状況下で、政権与党は、平和主義を蔑ろにする憲法改悪に本腰を入れ始めています。(つづく)
山家妄想 さまざまな墓への思い
★最近の社会の思いもかけぬ変容によって、墓のありようが揺れ動いている。先祖伝来の故郷の墓に盆や彼岸に参ることすらかなわず「墓じまい」をやむなくされることや、それもできかねて無縁墓になることを承知で放置せざるを得ないとも聞く。
★葬儀のありようの変化の大きいことは、すでに話題に上っていることだが、遺骸火葬後の焼骨の処置についても、遺族の思いは様々である。「骨上げ」を一応の作法に従って行い「喉仏」を含む遺骨を、主として自家の墓に納骨する普通のやり方以外に、散骨(実際には「骨」を撒くことは許されていない。「灰」にせねばならない。そのための道具も寺への業界誌に記載されるほどだ)や樹木葬、永代供養墓への納骨、はては手元供養と称して「しゃれた(それとわからぬ)骨壺やペンダント」(これも仏具店からしゃれた一冊のカタログをいただいている)に骨を忍ばせて身に着けるなど、様々である。
★わが寺における墓の変遷を見ても、故人一人一人(夫婦一体)の墓をたてて、50年を過ぎれば先祖代々の五輪塔に納める(そのために墓石も細工しやすい和泉砂岩などの軟らかな石を使うことが流行した)のから「○○家之墓」へ、そして最近では好みの名を付けた「塔」に縁者みんなが仲良く入る予定の墓も出て来ている。もちろん寺の納骨施設(永代供養墓や納骨堂)を利用する者も増えてきている。わが寺でも古くからお祀りしている地蔵尊の下に「三界萬霊墓」をしつらえているが、そこに合葬を希望する者も出てきている。このような墓のありように故人と遺族の間の関係・思いや感情のありようが反映していると思うのだが、墓へ参りくる姿にはより濃く直截に、それが表れている。
★寺の開基の末裔でもある本家はすでにあとが絶え、寺で集合墓として一所にまとめてお祀りしているのだが、その新宅は開基以来の個人墓をすべて並べることを望んだ。盆・両彼岸にはすべてに「シャシャキ」を供えにくる。しかし、本家の集合墓には振り向くこともない。
★両親は、古くからわが寺の檀徒であったと主張し寺に墓をつくることを希望して父の死後墓を建てた。ところが嗣子の兄妹は母親の扶養を巡って対立を深めた。その対立は父親の供養や墓の維持までに及び、兄(兄嫁)はその義務を放棄した。現在、寺とは没交渉となっている。遠隔地に住む妹も、老齢となり墓参もまれとなっている。★夫がなくなった女性は阪神間に住んでいるのだが、夫の納骨後毎月墓参に来ていたが、別居していた姑が死去し納骨された途端に来なくなった。姑在世中の複雑な関係が想像されるのだが、理解しがたいことである。かれらの叔父にあたる者の墓も寺に二つある。いずれも遠隔地に居住している。末弟の夫人は毎年盆・両彼岸には本家をはじめとする墓にたくさんの花を抱えてお参りしていた。しかしここ数年、施設へでも入っているのか姿を見せない。夫と息子の入っている墓にも供花はしばらく見ない。本家の嫁が墓参のついでこの墓に花を供えることもない。
★また、新しく費用をかけて一基の立派な墓を新設した時、「これでしばしばお参りにこれます」と晴れ晴れとした顔で語っていた老婦人であるが「しばしば」は実現していない。この墓の傍には、ちょうどその従兄弟にあたる者の墓もあるのだが、兄の建てた両親の墓碑を弟が削りなおして「○○家之墓」と変え、納骨していた両親の骨を持ち帰った。兄嫁も老人ホームでなくなり納骨されているが、嗣子はなく参ってくる者もいなくなっている。すぐ隣に立派な墓を造っているのだから、自家の墓参のついでに花の一輪も供えればと思うのだが、その気持ちは浮かびそうにない。
★両親が残した「調整区域」の田地に子どもの家と自らの隠居所を建てている退職公務員も墓参に来たことがない。それどころか両親の年忌供養など通知をしても一切したことがない。ただ、他家へ嫁いだ次姉夫婦が時々「こっそり」と音も立てずに忍び来て花を供えて帰っている。
★もちろん寺に墓を所有する大方のものは、盆暮れ・両彼岸や年忌供養の後に墓参し塔婆を建てることを怠らない。ただ墓参の際「水をいただきます。お参りさせていただきます」と挨拶を欠かさない者は、ごく少ない。また本堂にお参りすることは墓参りとは別と考えるのか、頭を下げる者はほとんどない。門前の不動尊や地蔵堂へも同様である。亡くなった者との縁への思いの枠をこえて我が生につながる先祖への思い、そして仏縁の尊さに思いを致す域へ、彼らを導き得ていない至らなさを痛感するのである。
(2018・5・19)
水田全一・妙心寺派の一老僧