日本宗平協2017年度全国理事会開催


 5月22日、23日の2日間、日本宗教者平和協議会は、神戸市妙法華院(前住職 故新間智照 元代表委員)において、2017年度全国理事会を開催しました。
 正午より常任理事会・事務局合同会議を開き、2日間の日程確認、討議案の検討を行いました。
 午後1時からは、日蓮宗有志僧侶による、「故新間智照師追悼法要」(下写真)を勤修し、後、新間智孝妙法華院住職から歓迎の挨拶がありました。
 午後2時開会。初日参加者30人。荒川庸生理事長が開会挨拶、当地妙法華院での開催の意義を述べました。
 議長には、長田譲(大阪)・小野和典(静岡)の両常任理事が選任され、2日間の全国理事会が始まりました。
 記念講演は、弁護士の川元志穂氏が「共謀罪とは何か」の講題で約一時間の講演を行いました。今まさに国会で強行採決され衆議院を通過しようとしている時期であり、各方面から批判を浴びている悪法を、具体的な資料をもとに解説しました。また、国際的な面からも、国連プライバシー権に関する特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏からの、日本政府に対する共謀罪法案の矛盾、異議・懸念の提起が紹介されました。
 休憩後、森修覚事務局長から2017年度の活動方針案・決算報告・財政案・人事案が一括提案され2日間の討議に入りました。
 初日は、提起された議案をもとに各地から参加した会員の意見交流・討議・活動報告が行われました。2日目、「共謀罪法案」が衆議院本会議を審議未了のまま通過する中、しかしまた一方では、核兵器禁止条約の草案が報道されるという画期的な状況の中で討議再開。午前中を通して、運動方針案・人事案・財政案等が継続討議され、各地宗平協・団体からの具体的な報告もありました。
 6月ニューヨーク国連本部で行われる核兵器禁止条約の採択に向け、日本宗平協からも代表者を派遣する取り組み・支援の紹介が続き、運動方針案・人事案・財務案が採択されました。
 大江真道代表委員の閉会挨拶をもって2日間の討議が終了しました。

日本宗教者平和協議会 新年度役員
代表委員 
 大江 真道
 奥田 靖二
 河崎 俊栄
 工藤 良任
 鈴木 徹衆
 宮城 泰年
 矢野 太一
☆榎本 栄次
理事長  荒川 庸生
事務局長 森  修覚 
副理事長 
 大原 光夫
 岸田 正博
 桑山 源龍
 高木 孝裕
 平沢  功
 山本 光一
☆遠藤 教温
常任理事 
 安孫子義昭(滋賀)
 荒川 徹真(東京)
 伊藤 地張(静岡)
 大高 敦子(山形)
 長田  譲(大阪)
 小山 弘泉(東京)
 小野 和典(静岡)
☆岡田 隆法(東京)
 佐々木祐恵(愛知)
 滋野 康賢(新潟)
☆新間 智孝(兵庫)
☆関  彬夫(千葉)
 相馬 述之(北海道)
 冨田 成美(京都)
 出口 玲子(京都)
 道家 明宗(岐阜)
 林  正道(大分)
 樋口 重夫(日キ平)
 本田正三郎(日キ平)
事務局次長 
  樋口 重夫
  荒川 徹真
  小野 和典
  滋野 康賢
 ☆岡田 隆法
☆は新任

日本宗教者平和協議会 2017年度運動方針 (上)


はじめに
私たちは、「平和の祈りを行動の波へ」と、戦後の荒廃する日本の現実のもとで、「あやまちをふたたびくり返してはならない」との戦争責任の自覚とその反省に基づき、宗教・信仰の違いをこえて手を携え、戦争と平和の課題に具体的に取り組んできました。
 日本宗平協は、「信教の自由、政教分離」、「軍国主義復活・戦争する国づくりを許さない」、「核兵器廃絶、原発ゼロ」など人間性の尊重、尊厳を守るための諸行動を草の根からひろげて歩みつづけ、ことし結成(1962年4月12日)から55年を迎えました。
多くの先達に思いを馳せ、いのちと平和のための無数に重なる祈りと55年の歩みに確信を持ち、常に自省しつつ被爆国日本の現代に生きる宗教者としての役割を発揮していく決意です。
 ことし3月、ニューヨークの国連本部で「核兵器禁止条約の国連会議」が開催され、115カ国をこえる参加国は、すみやかに禁止条約をつくることで一致し、6月からの第2会期の「最終日までに条約案の採択される可能性が生まれてきた」(ホワイト議長)という歴史的な一歩を踏み出しました。核兵器が違法化される条約採択にむけ、被爆国の宗教者として「ヒバクシャ国際署名」など国民的な運動の前進に寄与します。
日本国憲法に真っ向から背く、特定秘密保護法、戦争法(安保関連法)に反対する国民的運動がかつてない規模で市民社会に広がり、宗教者も宗教・教派を超えて、「殺すな、殺させるな、殺すことを許すな」と歴史的たたかいの一端を担ってきました。
暴走をつづける安倍晋三政権は「共謀罪」を国会に提出しました。内心を取り締まり、思想・信条の自由を侵害する重大な危険性があるこの法案を4度廃案に追い込むために、「戦争法廃止」での国民的運動の共同の教訓を活かし、現在と未来のために情勢にふさわしい宗教者の取り組みをすすめます。
化学兵器の使用は、人道と国際法に違反する残虐行為です。トランプ米政権は、化学兵器使用を口実に、シリアへミサイル攻撃をおこないました。トランプ大統領は、北朝鮮に対する軍事力行使に踏み切る可能性を示唆するなど、軍事的威嚇の危険な動きを強めています。
安倍首相は「東アジアでも大量破壊兵器の脅威は深刻さを増している」として、シリア攻撃への支持と一体に北朝鮮の核・ミサイル開発にあえて言及し、米国の対応を高く評価しています。こうした態度は、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」との日本国憲法にてらして絶対に許されません。法の支配を突き崩す行動への支持や理解はあってはなりませんし、北朝鮮問題などの平和的解決を強く求めます。

Ⅰ 安倍政権の「戦争する国」づくりを許さない
私たちはこの間、広範な宗教者、教団・団体がわが国の平和と国民のいのちを危険にさらし、立憲主義を破壊する「戦争法」の廃止、集団的自衛権行使容認の「閣議決定」の撤回、「共謀罪」の廃案などを求めて、反対声明や決議を発するなど、改憲右翼団体「日本会議」と一体に突出した危険性を露にしている安倍自公政権と対峙してきました。
アメリカが世界中で引き起こす戦争に自衛隊を派兵し、「殺し、殺される」危険が切迫しています。「戦争法」(安保関連法)廃止と立憲主義を破壊した政治の行き着く先は「強権・独裁政治」です。それを許さないために、立憲主義の回復のための取り組みが求められています。
安倍政権は、特定秘密保護法の強行につづき、昨年の国会では、憲法21条が保障する「通信の秘密」を侵害する盗聴捜査を可能にする通信傍受法の改悪を強行しました。4月には、これまで3度廃案になった「共謀罪」の衆院での審議入りを強行しました。「治安維持法」によって、私たちにとってかけがえのない信仰・教理にまで踏み込み、宗教団体・教団までもがいつの間にか捜査対象とされ深刻な人権侵害、基本的人権の蹂躪を招きました。思想・信条・言論にたいする取り締まりと弾圧がくり返された戦前、国民監視社会の再来を断じて許す訳にはいきません。
権力がひとたび治安立法を手にすれば、その運用は恣意的に拡大されることは侵略戦争の下でもっぱら行為ではなく思想を取り締まった「治安維持法」の歴史が証明しています。戦時下、反戦平和を願い、時の政府がすすめる国策に疑問を抱き、抵抗する政党や労働組合、自由主義者はもとより多くの宗教教団、宗教者も徹底的に弾圧されました。こうした状況の再来を許すわけにはいきません。
同時に安倍政権は、「教育勅語」を「現代でも通用するような価値観はある」(稲田防衛相)などと、学校教育の教材にすることを認める見解をまとめました。
侵略戦争を反省せず、国民を戦争に駆り立て、戦後の憲法や教育基本法のもとで国会で排除・失効が確認された「教育勅語」を道徳の教材にすることは、子どもたちの人権や自発性を無視し、「臣下」として扱う、こうした歴史逆行の姿勢を厳しく糾弾するものです。
「教育勅語」は、戦争が起きれば命をかけて天皇を守れというものであり、断じて一般的道徳を説いたものではありません。「教育勅語」を暗誦させる幼稚園を持ち上げるなどの戦前回帰の教育礼賛、「教育勅語」を道徳の教材にすることなどは断じて認めることはできません。
こうした戦後最悪の反動政権にたいし、国民の切実な願いに応え、野党各党は来る国政選挙で安倍政権打倒などをめざす選挙協力に合意しています。この選挙協力の合意と具体化をこころから歓迎するものです。
創価学会・公明党は、「自公連立政権による政治の安定は、多くの国民の支持を勝ち得ている。自民党と力を合わせて、政治と社会の安定、政策実現にまい進したい」(山口那津男代表)と安倍政権の暴走に加担し、「旧来の勢力」として「戦争する国」づくりのアクセルを踏み続けています。
一方、来るべき都議会議員選挙で小池百合子都知事と政策合意や相互推薦をおこなうなど、自民党と連携して石原都政時代から推進してきた豊洲の東京ガス跡地への市場移転問題の破たんや混迷についての責任についてはダンマリを決め込み、都政では「自公連立」を「解消」するなど、都政と国政でご都合主義の使い分けを鮮明にしています。
国政では自民党と一体で籠池問題などを不問にし、「教育勅語」や「共謀罪」を推進する創価学会・公明党の態度に、国民の厳しい批判は避けられません。
安倍政権は、国民の思想、情報、宣伝に重要な影響をもつマスコミへの介入を強めています。「表現の自由」「知る権利」を守り、主権在民や信教の自由、政教分離を定めた日本国憲法を守り抜くことが求められています。

Ⅱ 「平和の祈りを行動の波へ」
(1)改憲阻止、信教の自由、政教分離のために
文科省は小中学校の教育指導要領と幼稚園の教育要領を改訂し、教育基本法改悪(06年)で加えた「愛国心」などを含む「教育の目標」にそって学校現場を縛ろうとしています。
 安倍政権は、学校や幼稚園で「日の丸・君が代」を強制するなど、近代的な個人の概念を否定し、国家を国民の上に置き、個人の尊厳より国家を優先させようとしていますが、これは憲法や子どもの権利条約が保障する思想・良心の自由、信教の自由、表現の自由を踏みにじるものです。
 戦争に向かう国は、単に軍事力を強めるだけでなく、さまざまな形で国家が「秘密」を隠し、あるいは自由な表現活動などを制約することは歴史が証明しています。
 安倍政権の改憲策動を許さず、日本国憲法の定める「思想・信条の自由」(19条)、「信教の自由」(20条)、「表現の自由」(21条)の市民的自由が全面的に保障される社会をめざしましょう。
 各人の思想・良心の自由に合理的な根拠もなく立ち入ることは許されません。憲法9条改憲、「戦争する国づくり」の完成を許さず、この大原則を守り広げましょう。

(2)核兵器廃絶、3・1ビキニデー・墓前祭と世界大会
 核兵器の禁止・廃絶への歴史的な第一歩が踏み出されました。被爆の実相と核兵器の禁止・廃絶を求める被爆者の声が国内外にひろがり、核兵器の非人道性にたいする理解が国際社会の共通認識になったにもかかわらず、核保有国をはじめ「核の傘」に依存する一握りの国が核兵器廃絶に背を向けているもとで昨年末、国連総会は「核兵器全面廃絶につながる、核兵器を禁止する法的拘束力のある協定についての交渉する国連会議」の開催を決定しました。
 人類にとって死活的な緊急課題である核兵器禁止条約締結にむけた画期的な会議がことし3月、ニューヨークの国連本部で開かれました。核兵器禁止条約への流れはもはや後戻りできない確かなものとなっています。
「国連会議」の第2会期(6月15日~7月7日)の最後までには核兵器禁止条約が採択される可能性が生まれています。核兵器に「悪の烙印」を押し、違法化されようと開かれるこの第2会期の「国連会議」への日本からの要請代表団に、宗教者代表を派遣するために取り組みます。
 核保有国や日本などは禁止条約に反対し、この「国連会議」への不参加を表明しました。唯一の戦争被爆国でありながら日本政府は、「核保有国が参加しないもとで禁止条約をつくることは、核保有国と非核保有国の分断を深める」と弁明し、会議に出席しながら交渉には参加しないと表明しました。
 日本政府の反対論は、「核保有国が反対することは何もするな」というものであり、「国連会議」の席上で被爆者の藤森俊希日本被団協事務局次長とカナダ在住のサーロー節子さんは「交渉に全面的に参加する能力のない日本政府を糾弾したい…(米国の核の傘に入り続けているのではなく)日本国民の意思に応えて自主的な立場を取るべきです」と訴えました。
 核兵器禁止条約を実現し、全面廃絶へと前進させるために、被爆者が呼びかけた「ヒバクシャ国際署名」をさらに宗教界にひろげ、被爆の実相の普及、被爆者支援連帯など、反核平和の取り組みをいっそう前進させます。
日本宗平協は、主催する久保山愛吉墓前祭はもとより、「3・1ビキニデー集会」の成功に寄与するとともに、独自に宗教者平和運動交流集会を開催してきました。
 5月6日に東京・夢の島の第五福竜丸展示館前をスタートした「2017年国民平和大行進」に合流し、全国各地からの核兵器廃絶の願いを、被爆72年を迎える8月の広島・長崎で開かれる原水爆禁止世界大会とその関連行事「いのちをえらびとる断食のいのり」を成功させるとともに、広島での「原爆犠牲者追悼法要」と「灯ろう流し」、そして、長崎での「非核・非戦法要」への参加など、宗教者の独自の取り組みを通して平和の訴えを広めていきます。
 被爆地の宗教者との交流・連帯、全国各地で取り組まれている「平和の鐘」打鐘や「原爆展」開催、被爆者援護募金、署名行動などを含めて、世界大会に呼応した運動を展開します。
 憲法9条と非核三原則を輝かせ核兵器廃絶の先頭に立つ日本とするために奮闘し、2018年の被災65年のビキニデー諸集会と墓前祭をふさわしく成功させます。

(3)日本宗教者平和会議
 10月の国連軍縮週間に呼応する日本宗教者平和会議は、日本宗平協が主催し、開催地をはじめ広範な宗教者に参加をよびかけて開催してきました。日本宗教者平和会議開催の意義は、毎年時宜にかなったテーマを設定しながら平和を希求する宗教者としての学びを具体的な実践に結びつけていくことにあります。
昨年は、東京・八王子で開催し、日本平和委員会代表理事の内藤功弁護士が「急変貌・大増強する日本の基地」と題して、「戦争法」の具体化が日米軍の一体化となってすすめられている現状をリアルに報告。浄土真宗本願寺派法善寺前住職の山﨑龍明師が「宗教者平和運動の課題」と題して、命を大切にする宗教者として今の時代の課題は何かを問い、日本を現実的に戦争させないため、戦争への法的準備を許さない国民的運動について語りました。被爆者の上田紘治さんが「ヒバクシャ国際署名」と国連での核兵器禁止条約締結への動きを紹介しました。
 2日目には埼玉県平和委員会の二橋元長事務局長の案内で航空自衛隊入間基地と米空軍横田基地を視察し、日本の国土がアメリカの戦争のための出撃基地として使われている現実を学び、「自分の街を海外での戦争の拠点にさせない」取り組みと、戦争法を具体的に機能させずに廃止させる取り組み、基地被害の軽減、返還と跡地活用につなげる運動の重要さなどを学びあいました。
 ことしは、核兵器禁止条約の締結に向けた画期的・歴史的な動きのなか、この流れを実らせ、「ヒバクシャ国際署名」の推進など、「核兵器のない世界」への第一歩を踏み出した年にふさわしく、被爆地・長崎で102325日の日程で開催を予定します。
 被爆証言をうかがい、原爆資料館や被爆遺構・遺跡めぐりとともに、米海軍の強襲揚陸船隊基地で、沖縄と直結して海兵隊を海外に出撃させる拠点基地、自衛隊の海外への殴り込み機能を持つ「水陸両用機動団」の創設など日米共同即応体制が強化され、出撃拠点化が着々とすすむ佐世保基地の実態を学びあいたいと思います。 (次号に続く)

共謀罪反対・憲法改悪阻止をめざす 宗教者・信者全国集会


 去る5月31日、全国の平和を求める宗教者・信者が280名集まり、共謀罪に反対し憲法改悪を阻止しようという集会がありました。
 初めに呼びかけ人を代表し日本キリスト教協議会議長の小橋孝一氏が挨拶をされました。「信仰の違いを乗り越えて集まったというより、それぞれの信仰を大切にする中でこの法案に反対するために集まったのであり、好転することがなくとも諦めることなく反対を続けていくことが重要です」と述べられました。
 民進党、共産党、社民党から力強い連帯の挨拶がありました。中部電力の子会社が大垣市に計画している風力発電施設建設計画に関するなか、2013年に市民が勉強会を開いていただけで岐阜県警から監視され、個人情報が中部電力に提供されていた事件がありました。共謀罪が出来てしまえばどう悪用され市民の活動が日常的に監視され圧迫されることが懸念されること。そうした市民の連帯そのものを罪にして、楯突く人は普通ではないと、警察当局が見なせばそれで監視されるおそれがあることなどが指摘されました。
 戦争させない総がかり行動実行委員会の高田健氏からは、テロの原因は戦争や差別や貧困であり、共謀罪はテロ対策ではないことを改めて訴えられました。加計学園の獣医学部新設の問題などが浮上し、共謀罪に対する世論の潮目が変わってきていることに希望を感じられると発言されました。
 海渡雄一弁護士より共謀罪について基調講演がありました。戦前の治安維持法が拡大していく過程などが紹介され、共産党やその周辺団体を駆逐したあと、宗教弾圧や言論弾圧が猛威を振るったとのことでした。創価学会初代会長の牧口常三郎氏は1943年7月に下田署に連行され、その後獄死しました。
 最後にアピールを採択し、最後に御茶ノ水駅方面へ平和行進を行いました。

(関連写真表紙)

平和を求める宗教者がベトナムを訪問 

 北海道宗平協  守田 秀生師(幌加内・了善寺住職)


 北海道宗教者平和協議会は2月13日から6日間の日程でベトナム・カンボジア平和友好仏教交流事業を実施し、殿平善彦北海道宗平協理事長を団長に、京都からの参加を含め7名が参加しました。
 かつて、ベトナム軍のカンボジア駐留が終わろうとしていた1987年に、鈴木徹衆師を団長に、北海道の仏教者を中心にした仏教交流団がベトナム・カンボジア仏教会を訪問しました。1989年にはベトナム・カンボジア仏教代表団を日本に迎え、北海道での合同法要、シンポジュームを通じて両国の仏教会と友情をかわし、東アジアの平和友好の絆を深めました。
 以来28年の月日が流れましたが、このたび観光も兼ねながら両国を訪問し、ベトナム仏教者との久しぶりの交流を果たそうとこの事業が計画されました。
訪問団一行は2月13日にホーチミン市に入り、翌14日メコン川観光の後、1963年に当時の政権の仏教徒に対する高圧的な政策に抗議するため、アメリカ大使館前でガソリンをかぶって焼身自殺した釈廣徳(ティク・クアン・ドック)の記念像の前で読経し、権力の弾圧に抗ったベトナムの仏教者に思いをはせました。
 15日は華厳寺において参拝読経の後、ホーチミン市仏教会会長釈智廣(ティク・チ・クアン)師との意見交換会に臨みました。冒頭、殿平団長からかつて日本仏教平和交流団がベトナムを訪れ親しく交流したこと、さらにベトナム仏教会のミン・チャウ老師を団長にベトナム・カンボジア仏教代表団を日本に迎えて友好交流を深めたことを伝え、東アジアの平和のために今後も日越の仏教徒の交流を深めていきたい、と発言しました。
 これに答えて釈智廣師は、これまでにベトナムの平和のために多くの日本仏教徒の支援があったことに謝意が表され、ベトナムをはじめ、中国、韓国、北朝鮮、日本等の仏教徒の交流により東アジアの平和を実現したいとの発言がありました。
 華厳寺を後にした一行は、佛教大学大学院に留学経験のある釈覚勇(ティク・ザク・ユン)師の案内で、本人の所属寺院でもある永厳寺を訪れ、読経参拝しました。永源寺はベトナム戦争で犠牲になったベトナム人、さらに第2次世界大戦で戦死した日本人を慰霊するために建てられ、境内には日本から贈られた「平和の鐘」がありました。
 ホーチミン市最終日の16日は、アメリカ軍の枯葉剤作戦によってもたらされたダイオキシン被害者を収容し治療、養護、教育に当たっているツーヅー病院のベトナム平和村を訪問しました。 1990年からこの運動に携わるタン医師の説明によると、ダイオキシンによる障害を持った子どもがいまだに出生しており、ダイオキシンによる障がい者の数はホーチミン市だけで2万人に上ります。その内1万人は15歳以下の子どもで、多くは家庭で養護されています。この施設には60人収容されており、全国に50か所の施設がありますが、絶対的に施設が不足しており、現在300人収容の大規模な施設「オレンジ村」を建設中です。現在の平和村はドイツの援助によって1992年にできましたが、当初からアメリカの国からも民間人からも資金援助は全くなく、現在もヨーロッパや日本の民間援助によって支えられています。完成まであと1年ですが、総額5億円の資金集めの目途はたっていないとのことでした。平和村には、かつて日本で結合した身体の分離手術を受けたグエン・ドクさん(ドクちゃん)が職員として働いており、お会いすることができました。
 ベトナムでの日程を終えた一行は、カンボジア、アンコールの遺跡群、トンレサップ湖の水上生活を見分し帰国しました。
 この旅を通して私たちは、ベトナムをはじめとする東アジア仏教徒の交流の重要性を再認識するとともに、枯葉剤の被害がいまだに続き、苦しむベトナムの人々への支援活動の輪を広げなければならないと痛感しました。

山家妄想

禅宗僧侶のエリート意識


★ある宗教業界紙の「世音独声」欄にわが教団檀徒の、次のような言葉が載せられていた。「禅宗の僧侶は僧堂で修行を積んでおられるので、他派とは違うと思いますが、一般民衆よりも僧侶の方が上というエリート意識を感じることがあります。修行も大事ですが、人を導く方法を教育することも大事でしょう。またトップに立つ人の指導力に期待します。伝統だけで物事を考えておられたら、発展はない。お寺では、ご住職が普段から檀信徒さんを回って、顔を見に行くような地道な取り組みが大切です。今後も少子高齢化が進み、無住寺院が増えるわけですから、何よりもご住職の人間性を分かってもらう活動が必要だと思っています」。69才の京都に住んでおられる方らしいが、「毎朝父母の遺影に心経を唱え、山歩きして二つの寺と二つの神社にお参りしている」と、自分独自の勤行を続けていると言われる。
★いま教団でも課題とされていることに対して、僧侶の「エリート意識」と日々の布教のあり方を指摘されている。エリート意識の根源が僧堂における「人を導く方法の教育」の必要にありとの指摘は、禅僧がともすれば口にすることをはばかる僧堂のあり方についての指摘であり、僧堂の師家や教団トップの意識改革の必要を指摘したものであると受け止めたい。いまひとつは一般住職の日常活動についての提言である。「普段から檀信徒を回って、顔を見に行くような地道な取り組み」といわれるが、檀信徒と密着することによって生活の実態や悩みを知り、共にそれを受け止め解決しようとする菩薩行に徹することの提言である。寺に住職すると朝課勤行や日天掃除は欠かすことなく勤めることは意識しても、市井に入っての托鉢を心掛ける者は少ない。
★わが地方では「逮夜参り=月参り」の習慣がある。檀家の月命日には訪問して短いけれども読経し回向する。遠方の場合は年一度の祥月命日にお参りする。小さなわが寺でも、ほとんど毎日お参りすることになる。兼職をしていたときは、職場の空き時間に急ぎ帰ってお参りしたり、夜遅くお尋ねしたこともある。寺のみの専業となってからは、午前8時には始めることができている。各家に到着する時間もほぼ決まっていて、皆さん待っていて下さる。突発事態が起こって遅れたりすると、心配されて電話がかかってくる。家族そろって一緒に読経に加わられる家も増え続けている。
★読経後は、何くれと話が出る。家族の状況は自然と察しられるようになるし、深刻な悩みを相談されることもある。相談に対処するには、様々な問題に対しての自分なりの意見が必要になる。意見には無知や無責任は許されない。当然研修が欠かせないが、それは普段からの世間の出来事に対する関心が必要なのである。そして、読書を通じての学習をしなければならない。最近、ネットなどを通じての学習がフェイクなどといわれる過ちをもたらすと指摘されているが、学習の王道は読書であると考える。
★このような経験を積む中で、実はこの逮夜参りが先人の作ってくださった托鉢行なのだと思えるようになってきている。もっとも網代傘を被りわらじ履き、看板袋を掛けて町内一軒残らず声をかけて経を読む、本来の托鉢とは雲泥の差のあるものと承知はしているが、市井に交わり市井の労苦を身を以て体得する行に徹しなければと思うのである。提言を私なりに考えたのではあるが、「住職の人間性」が分かった時にどのような反応が出るのか、このことも私は心配である。人間性については如何ともしがたい面があるかもしれないが、少なくともその学識・知性については磨きをかけることは可能なのではないか。
★かつて、寺の和尚は村一番の知識人と認識されていて、新しく生まれた子供の名づけなど頼まれたこともあると聞かされた。エリート意識を感じさせるだけでは困るのであるが、エリートたらねばならぬという使命感を欠いてはならぬと思う。多様化している現代に博識を誇るということは困難であるが、たゆまぬ努力を続けることに徹した時、学識はもちろん、その人間性についても変化は表れるのではないかと、楽観するのである。エリート意識だけは旺盛な俗物には堕したくない。 (2017・4・29

水田全一・妙心寺派の一老僧

「ヒバクシャ国際署名」=日本宗平協ホームページから署名用紙を印刷できます。寺院・教会名・役職など記名していただく住職・牧師などの「個人署名」と「5名連記の署名用紙」の2種類があります。ご活用ください